英単語からアメリカがわかる

在米ライター黒田基子の使える時事ネタ英単語

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Banana Republic(バナナ・リパブリック)

バナナ・リパブリックといってもアパレルブランドのことではありません。トランプが次期大統領に決まってから、たびたびニュースに登場する単語です。娘婿(イバンカ・トランプの夫)ジャレッド・クシュナーが大統領上級顧問というホワイトハウスの要職に就くことが発表された時にも、ニュースにはBanana Republicが飛び交いました。「U.S. decline to Banana Republic.(バナナ・リパブリックに成り下がる米国)」「Is America a Banana Republic?(アメリカはバナナ・リパブリックか?)」「America may go from a global leader to third world banana republic.(アメリカはグローバルリーダーから第三世界のバナナ・リパブリックにまっしぐら)」

日本語版のウィキペディアでは「バナナ共和国」と訳されています。実際にそんな共和国があるわけではなく、政情不安定で、政府の要職が権力を持つ者の血縁者で占められていたり、汚職が蔓延したりしている発展途上国という意味です。もともとは、アメリカとの貿易だけに頼っていた昔の中南米の弱小国を指した言葉ですが、最近のニュースでは、今時存在しないような未開の国なみという自嘲的な意味で使われています。

トランプ政権がスタートしても、トランプ・エンタープライズの巨大な利益相反の問題は、息子2人に委任という意味のない対策のみ。閣僚候補には政治経験のない大富豪が名を連ね、アメリカはまさにバナナ・リパブリックへの道をまっしぐらです。バナナ・リパブリック化を有効に防止できる法律はありません。想定外の出来事に対する法治国家のもろさに唖然とするばかりです。

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Narcissistic personality disorder(ナルシスティック・パーソナリティ・ディスオーダー)

日本語にすると自己愛性人格障害。頭文字をとってNPDと略すこともあります。「ナルシスト」という言葉はカタカナ言葉としてよく知られているのでわかりやすいですが、逆に正確な意味が伝わりにくい名称です。これは「彼はナルシストだ」という程度の性格の特徴ではなく、病理的な心理機構による障害です。アメリカ心理学会が診断基準にしている自己愛性人格障害の特徴は次のようなものです。
誇大な自己イメージ、特権意識、自分の実績や才能の誇大認識、自らの成功やパワーなどの現実離れした夢想へのこだわり、賛美への渇望、自分の希望通りの扱いへの期待、他人の気持ちやニーズへの共感の欠如、他人への嫉妬また他人が自分を羨望しているとの思い込み、自分の希望を叶えるための他者の利用、尊大で傲慢な態度など。

こうした特徴にいちいち当てはまるトランプが自己愛性人格障害なのではないかということは予備選挙時から度々指摘されてきました。が、アメリカ心理学会には「実際に診察していない人(メディアに露出する有名人など)への診断は下さない」というGoldwater ruleと呼ばれる規定があり、トランプ自己愛性人格障害説は今ひとつ歯切れの悪いものでした。

しかし、トランプ大統領就任を目前に控えた今、度重なる常軌を逸した行動によって、トランプ自己愛性人格障害説は多くの人が認めるものになりつつあります。心理学者の中にもはっきりと「トランプは自己愛性人格障害である」と断言する人が出てきました。診断には実際に診察することが大切とはいえ、メディア露出の多い有名人の場合は、その行動から1時間の診察より多くがわかる、という意見もあります。人格障害の患者というのは診察室ではその特徴を隠そうとするので、長期にわたって実際の行動を観察できる方が診断の信ぴょう性は高いというのです。

トランプが自己愛性人格障害だと考えると、これまでのトンデモ発言や異常な行動がすべて理解できます。普通の政治家ならまず口にしないような、現実性のまったくない「メキシコ国境の壁」だの、何の根拠もない「ISISを全滅させる作戦」といったことを平気で言えるのは誇大妄想ゆえと思えば納得がいきます。ツイッターでのプロテストデモや個人への攻撃も、どう考えても政治家としてマイナスになるだけなのにやめられないのは、論理的に考えた行動ができない病気だからです。批判への過剰反応も自己愛性人格障害の特徴の一つです。

アメリカの情報機関による「大統領選挙戦時のロシアによるハッキング」報告を認めず、逆にCIAにくってかかるトランプの行動はトランプ本人の損得だけを考えてもまったく理屈に合いません。が、自己愛性人格障害ゆえに自分の勝利にケチをつけることは客観的事実であっても認めることができないのです。つまり問題が起こった場合にダメージコントロールができず、さらに墓穴を掘り続けることしかできないということです。これは大統領として致命的です。

日本語版のウィキペディアは、自己愛性パーソナリティ障害と思われる有名人として三島由紀夫やサルバドール・ダリをあげています。本人が幸せかどうかは別としてアーティストなら、かえってそれが作品の根源となっているとも言えます。リアリティ番組でのトランプの成功も、その障害ゆえかもしれません。が、トランプはその誇大妄想によって大統領になってしまいました。

選挙中の行動は作戦であって、大統領になれば大統領らしい行動ができるなどという楽観的な見通しをもっている人は今やほとんどいないでしょう。それどころか、ありえないと思われた大統領選に勝利したことが、トランプの誇大妄想に油を注いだと思われます。

自己愛性パーソナリティ障害患者との対応は大変難しいのだそうです。ちょっと批判すれば過剰に牙をむき、ほめればその妄想をさらに広げさせてしまうからです。上院下院ともに共和党がマジョリティを守っている現在、トランプの安全装置は思いがけない勝利を利用する気満々の共和党だけという心もとない状況です。

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secretary of state(セクレタリー・オブ・ステート)

国務長官のことです。セクレタリーは秘書という意味でよく知られていますが、この場合はもちろん秘書ではありません。ちなみに財務長官はsecretary of treasury、国防長官はsecretary of defense、商務長官は secretary of commerce という具合になりますが、法務長官だけはattorney generalです。

国務長官は外交を担当しますが、いわゆる外相より大きな権限をもち、アメリカ閣僚の中でも最も重要なポストです。トランプの組閣人事の中でも、誰が国務長官に指名されるのかは、ずっと注目を集め続けていました。ジュリアーニやらミット・ロムニーやら、二転三転した挙句に、トランプが指名したのはエクソンモービルのCEO、レックス・ティラーソンです。

だいたいトランプが指名した閣僚候補は誰一人として問題のない者がいないのですが、その中でも最も物議をかもしているのが国務長官の人選です。公職経験がまったくない国務長官というのは前例がないこと、プーチンと親しい親露家でありエクソンのCEOとしてロシアとの間に大きな利害関係があること、そしてエクソンのCEOとしてこれまでエクソンの利益のために、しばしばアメリカ政府の外交方針を無視してきたこと、と数え上げればきりがないのですが、だからこそティラーソンを選んだのだというのがトランプの言い分です。

「彼はディールメーカーだ。必要があれば誰とでも仲良くできるのはいいことじゃないか。」と、こういうわかりやすさがトランプの天才的なところです。トランプに限らず、このトランプの人選を支持する人たちの言い分は「レックスはエクソンのCEOとしてエクソンの利益を最優先して成果をあげてきたのであって、国務長官になればアメリカの国益のために能力を発揮するであろう」というものです。

が、アメリカの国益の定義については誰も論じていません。だいたい「お国のため」なんていうお題目にろくなことはありません。そもそも国務長官候補としてティラーソンをトランプにすすめたのはブッシュ政権下で国務長官だったコンドリーザ・ライスだと言われています。コンドリーザ・ライスはエクソンのコンサルタントをしています。そしてティラーソンの国務長官指名を賞賛している政治家の中には、ディック・チェイニー、ドナルド・ラムズフェルドもいます。ブッシュ政権の副大統領と国防長官。ブッシュを担ぎ上げて、あのイラク戦争に突入させたチームです。ちなみにディック・チェイニーが湾岸・イラク戦争を通じて軍需企業ハリバートンで大儲けしたのは有名な話です。

たとえティラーソンがアメリカの「国益」を第一に考えたとしても、その国益が普通の人々の利益につながるとはとても思えません。エクソンという一企業の問題ではなく、これで無国籍(国際)大企業が世界を動かす力がまた巨大になっていくということです。

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authoritarian(オーソリテリアン)

直訳すれば権威主義者。トランプ支持者のデモグラフィックとして、よく白人男性低学歴といった特長が挙げられるのですが、実は統計的にトランプ支持者を特徴づけるのはこれらの属性よりも権威主義への共感度合なのです。去年12月に1800人の有権者を対象に行われた調査結果によると、教育レベル、性別、収入、年齢、宗教などの属性には統計的に有意な差は見られず、権威主義だけが突出した特徴になっていたのだそうです。(http://www.politico.com/magazine/story/2016/01/donald-trump-2016-authoritarian-213533)

権威主義への共感度合はどのように測定するのかというと、これには1992年から政治科学者の間で使われている簡単な4つ質問があるんだそうです。それは子育てをトピックにして、自分の子どもにとって次のどちらが大切だと思うかをたずねるものです。「respectful または independent」、「obedient または self-reliant」、「well-behaved または considerate」、「well-mannered または curious」。前者を選んだ数が多いほどオーソリテリアン度合が強いということになります。そして、このテストでオーソリテリアンとされた有権者はトランプ支持者である確率が高かったのです。つまり予想に反してトランプが勝利したということは、アメリカのオーソリテリアンが予想以上に増えていたということでもあります。

実はこの統計結果は、今年1月にPoliticoに掲載されたもので、これを最初に読んだころはトランプが大統領になるどころか、共和党候補になることすらも予想していなかったので、あまり気にもとめていなかったのです。が、今になって改めてこの記事のことを思い出しました。

先週、トランプは国防長官に3年前に退役した海兵隊大将のジェームズ・マティスを指名しました。アメリカには、軍をコントロールするのは民間人であるべきという思想から軍人は退役後8年以上経たないと国防長官にはなれないという法律があります。マティスを国防長官に指名したということは、この法律を適用除外にするつもりだということです。このマティスに限らずトランプは軍人が好きです。国家安全保障補佐官に指名されたマイケル・フリンは元陸軍中将、CIA長官に指名されたマイク・ポンペオも元陸軍将校。そして国務長官候補として、デビッド・ペトレイアス(元陸軍大将)の名前も挙がっています。

上院も下院もマジョリティは共和党がにぎっています。おそらく適用除外も通ってしまうでしょう。前述のオーソリテリアン調査でいうと、共和党支持者は民主党支持者に比べて圧倒的にオーソリテリアンが多いのです。そして皮肉なことに二党政治では、非民主的なオーソリテリアンの方が上意下達の統率力で多数決に強い。

反エスタブリッシュメントの嵐で始まった選挙から生まれたのはオーソリテリアン政権だったという陳腐なまでに「歴史は繰り返す」筋書です。

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conflict of interest(コンフリクト・オブ・イントレスト)

差別発言、セクハラ、虚言と問題だらけのトランプですが、次期大統領と決まってから現実問題として一番に浮上してきたのが、conflict of interestです。日本語で言うと利益相反。

トランプは国際的に展開しているトランプ・エンタープライズの経営者です。アメリカ各地、そして海外にもトランプの名前のついたホテルやビルやゴルフ場があります。その他トランプブランドの商品も販売しています。たとえば、海外の要人がワシントンDCを訪れた場合、アメリカ大統領の心証をよくするためにトランプ・ホテルのスイートに宿泊するかもしれません。また、外国にトランプタワーやゴルフ場を作るために政治的圧力を使って国の認可を素早く受けることもできてしまいます。

つまり企業経営者が大統領になるということは汚職の種だらけになるということです。そもそも、どこまでが汚職かという区別さえつけられません。ですからこれまでの大統領は問題を避けるために例外なく個人資産をblind trust(白紙委任信託)にしてきました。ブラインド・トラストとは資産を清算(現金化)して第三者にその管理を託し、任期中はその財産の運用状況について本人には一切知らされないというものです。そもそも大統領になる時点ですでにプロの政治家であるのが普通ですからトランプのようなケースそのものが例外なのですが、企業に投資している資産などもすべてブラインド・トラストにするのが大統領の常識でした。

が、トランプの対策はトランプ・エンタープライズを自分の3人の子どもたちに託すというもの。それではブラインド・トラストにはならないのですが、トランプは完全なブラインド・トラストにする気はさらさらないようです。これにはメディアや民主党ばかりではなく、共和党内部からも批判があるのですが、トランプは自信満々です。

なぜかというとほとんどの公務員に適用されるconflict of interestを禁じた法律が大統領には適用されないから。大統領はそうした心配のない自己倫理をもつことが前提だからです。だからこそ歴代の大統領は「李下に冠を正さず」ということで資産をブラインド・トラスト化してきました。「法律がなければなんでもあり、法律があってもすり抜けられれば勝ち」みたいな倫理基準の持ち主が大統領になることが想定外だったわけです。

が、conflict of interestが適用されなくとも、収賄禁止法は大統領にも適用されます。トランプ・ホテルを海外の要人が利用しただけでも、それが収賄ではないということを証明することは容易ではありません。つまりトランプ・エンタープライズが営業しているだけで弾劾の種が次々出てくるというわけです。共和党内部からも批判があるのは、それがわかっているから。

それにしても、どうしてこんなにわかりやすい問題が選挙期間中にヒラリーサイドからもメディアからももっと深く追及されなかったのでしょう。きっとトランプ大統領実現の可能性を誰も想定していなかったからです。もっと真剣にトランプが大統領になったら何が起こるかをシミュレーションしていれば、こんな悪夢は避けられたかもしれないのに、と思うとまたやりきれなくなります。

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