英単語からアメリカがわかる

在米ライター黒田基子の使える時事ネタ英単語

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impeachment(インピーチメント)

弾劾。日本では弾劾といえば裁判官の罷免裁判ですが、アメリカでは大統領にも適用されます。トランプ大統領が現実になってからニュースに度々見かける単語ですが、ここ数日その登場頻度を増しています。が、実際には弾劾はめったに起こることではありません。これまで実際に弾劾裁判にいたった大統領はアンドリュー・ジョンソン(1868年)とビル・クリントンの2人のみ。しかもいずれも弾劾裁判で罷免をのがれています。ニクソンはウォーターゲートで訴追されましたが、弾劾裁判になる前に辞任しています。つまり、これまでに弾劾裁判で罷免になった大統領は誰もいないのです。

弾劾の種がてんこ盛りに見えるトランプでも実際に弾劾にまで持ち込むのは並大抵のことではありません。手続きとしては、まず、下院が過半数をもって訴追し、それを受けて上院で弾劾裁判が行われます。その上で大統領を弾劾するには上院で3分の2の同意が必要です。その訴追の根拠として憲法に定められているのは「反逆罪、収賄罪、その他の重罪や不品行」です。大統領にあるまじき発言の数々や、連発する大嘘くらいでは弾劾できないのです。

一番可能性の高いのはトランプエンタープライズとの利益相反がまねく収賄罪ですが、弾劾にあたる罪とするかどうかは訴追する下院の判断に任されています。その下院は共和党249議席に民主党193議席と共和党がかなり上回っています。そして上院もマジョリティは共和党。共和党が自党の大統領を弾劾せざるをえないくらいに切羽詰まった事態にならなければ弾劾は起こりません。つまり頼みの綱は共和党だけということになります。

当初は棚からぼたもちのようなトランプの勝利に大はしゃぎだった共和党ですが、今、共和党議員たちは、苦しい立場に追い込まれています。常識はずれな大統領令を連発する大統領に、就任からたった1週間でますます吹き荒れるプロテストの嵐。政治的リスクを恐れてトランプに同意することも批判することもできずに、大多数の共和党議員はだんまりを決め込んでいます。民主党の議員や州知事や市長が各地で大々的にトランプ批判を繰り広げているのと対照的です。

が、ここにきて共和党議員もトランプ批判をしないでいる方が政治的リスクが高いのでは、と考え始めているようです。中東7か国と難民入国禁止令は世界中で批判の的になり、司法とも対立し、プロテストデモは広がるばかり。そもそも共和党にとっては言うことをきく副大統領のペンスに首をすげかえた方が都合がいいのです。トランプサポーターの反発を恐れずに弾劾できるならそれにこしたことはない。一方、これまでリベラルの間で弾劾を求める声が今一つ盛り上がらなかったのは、トランプの後釜が反LGBT中絶禁止を唱える超保守のペンスだから。が、「トランプはペンスよりはましなのでは」という希望的予測が幻想であったことがはっきりした今、共和党も民主党も無党派リベラルも「トランプをなんとかしたい」ということで一致しています。

なにかにつけて前代未聞続きのトランプはアメリカ史上初の弾劾裁判で罷免される大統領になるかもしれません。

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alternative facts(オルタナティブ・ファクツ)

 ホワイトハウスの報道官、ショーン・スパイサーの初回の会見は「トランプ大統領就任式は歴史上最大の観衆を集めた」という大嘘発表で始まりました。就任式会場の俯瞰写真からもDCの地下鉄利用者数からもトランプの就任式の観衆がオバマの就任式の観衆を下回っていたのは動かせない事実。既に就任式の不人気ぶりはメディアで大きく報道されていただけに、このあまりにも見え見えな嘘は多くのアメリカ人を唖然とさせました。さらにそれに追い打ちをかけたのが、報道官の嘘を追求されたトランプのアドバイザー、ケリーアン・コンウェイが言い放った名言(迷言)、alternative factsです。
 alternativeというのは「代替の」とか「従来とは異なる」、「もう一つの」といった意味の形容詞です。よく使われる例としてはalternative medicineがあります。alternative medicineとは西洋医学に対して漢方などの東洋医学やハーブ療法などの伝承療法を指す言葉で、この場合、alternativeは「異なるアプローチの」といった意味合いになります。
 が、alternative facts となると話は違います。fact(事実)にalternativeなんてあるわけありません。根拠のまったくない「史上最大の観衆」という報道官の発言を嘘と言わずに「alternative factsを発表しただけ」と言う無理やりな言い訳は、まさにケリーアン・コンウェイならでは。選挙期間中はトランプの問題発言の火消し役で大活躍していたケリーアン・コンウエイは、現在トランプ政権のアドバイザーとして、メディアとのコミュニケーションで重要な役割を担っています。臨機応変に追求をかわす頭の回転の速さと思わずのけぞるようなスーパー詭弁の力技で注目されるキャラです。
 が、いかにケリーアンがクリエイティブであろうとも、alternative factsなんてことが世間に通用するわけはありません。#AlternativeFactsというハッシュタグはあっという間にネットをかけめぐり、リベラルジョークのネタになりました。そもそも就任式の観衆数などどうでもいいような問題ですが、そのどうでもいいことに、誰が見てもわかる嘘をつくこと自体が常識的な理解の範囲を超えています。理解できるのは、これからもホワイトハウス報道官の発表はalternative factsてんこ盛りであろうということだけです。
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Banana Republic(バナナ・リパブリック)

バナナ・リパブリックといってもアパレルブランドのことではありません。トランプが次期大統領に決まってから、たびたびニュースに登場する単語です。娘婿(イバンカ・トランプの夫)ジャレッド・クシュナーが大統領上級顧問というホワイトハウスの要職に就くことが発表された時にも、ニュースにはBanana Republicが飛び交いました。「U.S. decline to Banana Republic.(バナナ・リパブリックに成り下がる米国)」「Is America a Banana Republic?(アメリカはバナナ・リパブリックか?)」「America may go from a global leader to third world banana republic.(アメリカはグローバルリーダーから第三世界のバナナ・リパブリックにまっしぐら)」

日本語版のウィキペディアでは「バナナ共和国」と訳されています。実際にそんな共和国があるわけではなく、政情不安定で、政府の要職が権力を持つ者の血縁者で占められていたり、汚職が蔓延したりしている発展途上国という意味です。もともとは、アメリカとの貿易だけに頼っていた昔の中南米の弱小国を指した言葉ですが、最近のニュースでは、今時存在しないような未開の国なみという自嘲的な意味で使われています。

トランプ政権がスタートしても、トランプ・エンタープライズの巨大な利益相反の問題は、息子2人に委任という意味のない対策のみ。閣僚候補には政治経験のない大富豪が名を連ね、アメリカはまさにバナナ・リパブリックへの道をまっしぐらです。バナナ・リパブリック化を有効に防止できる法律はありません。想定外の出来事に対する法治国家のもろさに唖然とするばかりです。

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Narcissistic personality disorder(ナルシスティック・パーソナリティ・ディスオーダー)

日本語にすると自己愛性人格障害。頭文字をとってNPDと略すこともあります。「ナルシスト」という言葉はカタカナ言葉としてよく知られているのでわかりやすいですが、逆に正確な意味が伝わりにくい名称です。これは「彼はナルシストだ」という程度の性格の特徴ではなく、病理的な心理機構による障害です。アメリカ心理学会が診断基準にしている自己愛性人格障害の特徴は次のようなものです。
誇大な自己イメージ、特権意識、自分の実績や才能の誇大認識、自らの成功やパワーなどの現実離れした夢想へのこだわり、賛美への渇望、自分の希望通りの扱いへの期待、他人の気持ちやニーズへの共感の欠如、他人への嫉妬また他人が自分を羨望しているとの思い込み、自分の希望を叶えるための他者の利用、尊大で傲慢な態度など。

こうした特徴にいちいち当てはまるトランプが自己愛性人格障害なのではないかということは予備選挙時から度々指摘されてきました。が、アメリカ心理学会には「実際に診察していない人(メディアに露出する有名人など)への診断は下さない」というGoldwater ruleと呼ばれる規定があり、トランプ自己愛性人格障害説は今ひとつ歯切れの悪いものでした。

しかし、トランプ大統領就任を目前に控えた今、度重なる常軌を逸した行動によって、トランプ自己愛性人格障害説は多くの人が認めるものになりつつあります。心理学者の中にもはっきりと「トランプは自己愛性人格障害である」と断言する人が出てきました。診断には実際に診察することが大切とはいえ、メディア露出の多い有名人の場合は、その行動から1時間の診察より多くがわかる、という意見もあります。人格障害の患者というのは診察室ではその特徴を隠そうとするので、長期にわたって実際の行動を観察できる方が診断の信ぴょう性は高いというのです。

トランプが自己愛性人格障害だと考えると、これまでのトンデモ発言や異常な行動がすべて理解できます。普通の政治家ならまず口にしないような、現実性のまったくない「メキシコ国境の壁」だの、何の根拠もない「ISISを全滅させる作戦」といったことを平気で言えるのは誇大妄想ゆえと思えば納得がいきます。ツイッターでのプロテストデモや個人への攻撃も、どう考えても政治家としてマイナスになるだけなのにやめられないのは、論理的に考えた行動ができない病気だからです。批判への過剰反応も自己愛性人格障害の特徴の一つです。

アメリカの情報機関による「大統領選挙戦時のロシアによるハッキング」報告を認めず、逆にCIAにくってかかるトランプの行動はトランプ本人の損得だけを考えてもまったく理屈に合いません。が、自己愛性人格障害ゆえに自分の勝利にケチをつけることは客観的事実であっても認めることができないのです。つまり問題が起こった場合にダメージコントロールができず、さらに墓穴を掘り続けることしかできないということです。これは大統領として致命的です。

日本語版のウィキペディアは、自己愛性パーソナリティ障害と思われる有名人として三島由紀夫やサルバドール・ダリをあげています。本人が幸せかどうかは別としてアーティストなら、かえってそれが作品の根源となっているとも言えます。リアリティ番組でのトランプの成功も、その障害ゆえかもしれません。が、トランプはその誇大妄想によって大統領になってしまいました。

選挙中の行動は作戦であって、大統領になれば大統領らしい行動ができるなどという楽観的な見通しをもっている人は今やほとんどいないでしょう。それどころか、ありえないと思われた大統領選に勝利したことが、トランプの誇大妄想に油を注いだと思われます。

自己愛性パーソナリティ障害患者との対応は大変難しいのだそうです。ちょっと批判すれば過剰に牙をむき、ほめればその妄想をさらに広げさせてしまうからです。上院下院ともに共和党がマジョリティを守っている現在、トランプの安全装置は思いがけない勝利を利用する気満々の共和党だけという心もとない状況です。

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secretary of state(セクレタリー・オブ・ステート)

国務長官のことです。セクレタリーは秘書という意味でよく知られていますが、この場合はもちろん秘書ではありません。ちなみに財務長官はsecretary of treasury、国防長官はsecretary of defense、商務長官は secretary of commerce という具合になりますが、法務長官だけはattorney generalです。

国務長官は外交を担当しますが、いわゆる外相より大きな権限をもち、アメリカ閣僚の中でも最も重要なポストです。トランプの組閣人事の中でも、誰が国務長官に指名されるのかは、ずっと注目を集め続けていました。ジュリアーニやらミット・ロムニーやら、二転三転した挙句に、トランプが指名したのはエクソンモービルのCEO、レックス・ティラーソンです。

だいたいトランプが指名した閣僚候補は誰一人として問題のない者がいないのですが、その中でも最も物議をかもしているのが国務長官の人選です。公職経験がまったくない国務長官というのは前例がないこと、プーチンと親しい親露家でありエクソンのCEOとしてロシアとの間に大きな利害関係があること、そしてエクソンのCEOとしてこれまでエクソンの利益のために、しばしばアメリカ政府の外交方針を無視してきたこと、と数え上げればきりがないのですが、だからこそティラーソンを選んだのだというのがトランプの言い分です。

「彼はディールメーカーだ。必要があれば誰とでも仲良くできるのはいいことじゃないか。」と、こういうわかりやすさがトランプの天才的なところです。トランプに限らず、このトランプの人選を支持する人たちの言い分は「レックスはエクソンのCEOとしてエクソンの利益を最優先して成果をあげてきたのであって、国務長官になればアメリカの国益のために能力を発揮するであろう」というものです。

が、アメリカの国益の定義については誰も論じていません。だいたい「お国のため」なんていうお題目にろくなことはありません。そもそも国務長官候補としてティラーソンをトランプにすすめたのはブッシュ政権下で国務長官だったコンドリーザ・ライスだと言われています。コンドリーザ・ライスはエクソンのコンサルタントをしています。そしてティラーソンの国務長官指名を賞賛している政治家の中には、ディック・チェイニー、ドナルド・ラムズフェルドもいます。ブッシュ政権の副大統領と国防長官。ブッシュを担ぎ上げて、あのイラク戦争に突入させたチームです。ちなみにディック・チェイニーが湾岸・イラク戦争を通じて軍需企業ハリバートンで大儲けしたのは有名な話です。

たとえティラーソンがアメリカの「国益」を第一に考えたとしても、その国益が普通の人々の利益につながるとはとても思えません。エクソンという一企業の問題ではなく、これで無国籍(国際)大企業が世界を動かす力がまた巨大になっていくということです。

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