縁故主義、縁故採用、縁者や身内をひいきする、という意味です。耳慣れない言葉ですが、それもそのはず、今年になるまで半世紀にわたってアメリカではネポティズムが問題になることはなかったからです。大統領の家族が政府の要職に就くことを禁じたanti-nepotism law(反縁故法)は、ケネディ大統領が弟を司法長官にしたことが政権の私物化と批判され、それを防ぐためにリンドン・ジョンソン政権下で制定されました。それ以来半世紀にわたってこの法律に抵触した例はありません。
 その誰もが忘れていたようなanti-nepotism lawが度々ニュースに登場するようになったのは、1月にトランプが娘婿、ジャレッド・クシュナーを大統領上級顧問にすると言いだしてからです。この反縁故法というのは、大統領の親族が閣僚となることは禁じているのですが、ホワイトハウススタッフについては定義が曖昧なのだそうです。大統領顧問は政権の要職ではありますが、閣僚ではありません。多くの批判を受けながら、トランプはクシュナーを無報酬にするから問題はない、と押し切りました。もちろんネポティズムの問題は公職の報酬なんてチャチな話じゃなくて、そのポジションに伴う大きな権力です。要するに、利益相反対策と称してトランプ・エンタープライズを息子たちに託したのと同じくらい本質的に無意味な対策を形だけとっているわけです。
 そして今度はイバンカです。当初、公職には就かないと宣言していたのですが、公式なポジションがないまま、外国の首脳との会談から機密情報のミーティングまで、あらゆるところに同席しまくってきました。ここにきて正式にホワイトハウスのアドバイザーの一人となることが発表されました。イバンカも無報酬だそうです。閣僚と違ってホワイトハウスのスタッフはネポティズムOKという法解釈がまかり通っているのに、わざわざ無意味な「無報酬」をうたうところが国民を馬鹿にしています。利益相反の種がありまくりのジャレッド・クシュナーとイバンカ・トランプが得る可能性のある利益は政府のケチな給料とは桁が違います。
 そういえば政権スタート前には、ジャレッド・クシュナーとイバンカには、若い世代として環境保護やLGBTや働く女性を支援する方向に向かってトランプ政権を中和させるという役目が期待されていました。今となってはおめでたい期待であったとしかいいようがありません。環境規制はとりはらう、女性の健康や子どもの貧困への支援は打ち切るという反環境、反福祉路線を突き進むトランプにブレーキをかける気配はまったくありません。イバンカはあれだけあちこちに出没していながら、何をしているのかは謎です。ジャレッド・クシュナーはトランプが「連邦政府の効率性を高めるために」新しく作ったWhite House Office of American Innovationをリードすると発表されました。政府を「ビジネス感覚で」改革していくそうです。もちろんまったく期待されていません。
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