英単語からアメリカがわかる

在米ライター黒田基子の使える時事ネタ英単語

カテゴリー: 政治 (2ページ / 4ページ)

alternative facts(オルタナティブ・ファクツ)

 ホワイトハウスの報道官、ショーン・スパイサーの初回の会見は「トランプ大統領就任式は歴史上最大の観衆を集めた」という大嘘発表で始まりました。就任式会場の俯瞰写真からもDCの地下鉄利用者数からもトランプの就任式の観衆がオバマの就任式の観衆を下回っていたのは動かせない事実。既に就任式の不人気ぶりはメディアで大きく報道されていただけに、このあまりにも見え見えな嘘は多くのアメリカ人を唖然とさせました。さらにそれに追い打ちをかけたのが、報道官の嘘を追求されたトランプのアドバイザー、ケリーアン・コンウェイが言い放った名言(迷言)、alternative factsです。
 alternativeというのは「代替の」とか「従来とは異なる」、「もう一つの」といった意味の形容詞です。よく使われる例としてはalternative medicineがあります。alternative medicineとは西洋医学に対して漢方などの東洋医学やハーブ療法などの伝承療法を指す言葉で、この場合、alternativeは「異なるアプローチの」といった意味合いになります。
 が、alternative facts となると話は違います。fact(事実)にalternativeなんてあるわけありません。根拠のまったくない「史上最大の観衆」という報道官の発言を嘘と言わずに「alternative factsを発表しただけ」と言う無理やりな言い訳は、まさにケリーアン・コンウェイならでは。選挙期間中はトランプの問題発言の火消し役で大活躍していたケリーアン・コンウエイは、現在トランプ政権のアドバイザーとして、メディアとのコミュニケーションで重要な役割を担っています。臨機応変に追求をかわす頭の回転の速さと思わずのけぞるようなスーパー詭弁の力技で注目されるキャラです。
 が、いかにケリーアンがクリエイティブであろうとも、alternative factsなんてことが世間に通用するわけはありません。#AlternativeFactsというハッシュタグはあっという間にネットをかけめぐり、リベラルジョークのネタになりました。そもそも就任式の観衆数などどうでもいいような問題ですが、そのどうでもいいことに、誰が見てもわかる嘘をつくこと自体が常識的な理解の範囲を超えています。理解できるのは、これからもホワイトハウス報道官の発表はalternative factsてんこ盛りであろうということだけです。
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Banana Republic(バナナ・リパブリック)

バナナ・リパブリックといってもアパレルブランドのことではありません。トランプが次期大統領に決まってから、たびたびニュースに登場する単語です。娘婿(イバンカ・トランプの夫)ジャレッド・クシュナーが大統領上級顧問というホワイトハウスの要職に就くことが発表された時にも、ニュースにはBanana Republicが飛び交いました。「U.S. decline to Banana Republic.(バナナ・リパブリックに成り下がる米国)」「Is America a Banana Republic?(アメリカはバナナ・リパブリックか?)」「America may go from a global leader to third world banana republic.(アメリカはグローバルリーダーから第三世界のバナナ・リパブリックにまっしぐら)」

日本語版のウィキペディアでは「バナナ共和国」と訳されています。実際にそんな共和国があるわけではなく、政情不安定で、政府の要職が権力を持つ者の血縁者で占められていたり、汚職が蔓延したりしている発展途上国という意味です。もともとは、アメリカとの貿易だけに頼っていた昔の中南米の弱小国を指した言葉ですが、最近のニュースでは、今時存在しないような未開の国なみという自嘲的な意味で使われています。

トランプ政権がスタートしても、トランプ・エンタープライズの巨大な利益相反の問題は、息子2人に委任という意味のない対策のみ。閣僚候補には政治経験のない大富豪が名を連ね、アメリカはまさにバナナ・リパブリックへの道をまっしぐらです。バナナ・リパブリック化を有効に防止できる法律はありません。想定外の出来事に対する法治国家のもろさに唖然とするばかりです。

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secretary of state(セクレタリー・オブ・ステート)

国務長官のことです。セクレタリーは秘書という意味でよく知られていますが、この場合はもちろん秘書ではありません。ちなみに財務長官はsecretary of treasury、国防長官はsecretary of defense、商務長官は secretary of commerce という具合になりますが、法務長官だけはattorney generalです。

国務長官は外交を担当しますが、いわゆる外相より大きな権限をもち、アメリカ閣僚の中でも最も重要なポストです。トランプの組閣人事の中でも、誰が国務長官に指名されるのかは、ずっと注目を集め続けていました。ジュリアーニやらミット・ロムニーやら、二転三転した挙句に、トランプが指名したのはエクソンモービルのCEO、レックス・ティラーソンです。

だいたいトランプが指名した閣僚候補は誰一人として問題のない者がいないのですが、その中でも最も物議をかもしているのが国務長官の人選です。公職経験がまったくない国務長官というのは前例がないこと、プーチンと親しい親露家でありエクソンのCEOとしてロシアとの間に大きな利害関係があること、そしてエクソンのCEOとしてこれまでエクソンの利益のために、しばしばアメリカ政府の外交方針を無視してきたこと、と数え上げればきりがないのですが、だからこそティラーソンを選んだのだというのがトランプの言い分です。

「彼はディールメーカーだ。必要があれば誰とでも仲良くできるのはいいことじゃないか。」と、こういうわかりやすさがトランプの天才的なところです。トランプに限らず、このトランプの人選を支持する人たちの言い分は「レックスはエクソンのCEOとしてエクソンの利益を最優先して成果をあげてきたのであって、国務長官になればアメリカの国益のために能力を発揮するであろう」というものです。

が、アメリカの国益の定義については誰も論じていません。だいたい「お国のため」なんていうお題目にろくなことはありません。そもそも国務長官候補としてティラーソンをトランプにすすめたのはブッシュ政権下で国務長官だったコンドリーザ・ライスだと言われています。コンドリーザ・ライスはエクソンのコンサルタントをしています。そしてティラーソンの国務長官指名を賞賛している政治家の中には、ディック・チェイニー、ドナルド・ラムズフェルドもいます。ブッシュ政権の副大統領と国防長官。ブッシュを担ぎ上げて、あのイラク戦争に突入させたチームです。ちなみにディック・チェイニーが湾岸・イラク戦争を通じて軍需企業ハリバートンで大儲けしたのは有名な話です。

たとえティラーソンがアメリカの「国益」を第一に考えたとしても、その国益が普通の人々の利益につながるとはとても思えません。エクソンという一企業の問題ではなく、これで無国籍(国際)大企業が世界を動かす力がまた巨大になっていくということです。

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authoritarian(オーソリテリアン)

直訳すれば権威主義者。トランプ支持者のデモグラフィックとして、よく白人男性低学歴といった特長が挙げられるのですが、実は統計的にトランプ支持者を特徴づけるのはこれらの属性よりも権威主義への共感度合なのです。去年12月に1800人の有権者を対象に行われた調査結果によると、教育レベル、性別、収入、年齢、宗教などの属性には統計的に有意な差は見られず、権威主義だけが突出した特徴になっていたのだそうです。(http://www.politico.com/magazine/story/2016/01/donald-trump-2016-authoritarian-213533)

権威主義への共感度合はどのように測定するのかというと、これには1992年から政治科学者の間で使われている簡単な4つ質問があるんだそうです。それは子育てをトピックにして、自分の子どもにとって次のどちらが大切だと思うかをたずねるものです。「respectful または independent」、「obedient または self-reliant」、「well-behaved または considerate」、「well-mannered または curious」。前者を選んだ数が多いほどオーソリテリアン度合が強いということになります。そして、このテストでオーソリテリアンとされた有権者はトランプ支持者である確率が高かったのです。つまり予想に反してトランプが勝利したということは、アメリカのオーソリテリアンが予想以上に増えていたということでもあります。

実はこの統計結果は、今年1月にPoliticoに掲載されたもので、これを最初に読んだころはトランプが大統領になるどころか、共和党候補になることすらも予想していなかったので、あまり気にもとめていなかったのです。が、今になって改めてこの記事のことを思い出しました。

先週、トランプは国防長官に3年前に退役した海兵隊大将のジェームズ・マティスを指名しました。アメリカには、軍をコントロールするのは民間人であるべきという思想から軍人は退役後8年以上経たないと国防長官にはなれないという法律があります。マティスを国防長官に指名したということは、この法律を適用除外にするつもりだということです。このマティスに限らずトランプは軍人が好きです。国家安全保障補佐官に指名されたマイケル・フリンは元陸軍中将、CIA長官に指名されたマイク・ポンペオも元陸軍将校。そして国務長官候補として、デビッド・ペトレイアス(元陸軍大将)の名前も挙がっています。

上院も下院もマジョリティは共和党がにぎっています。おそらく適用除外も通ってしまうでしょう。前述のオーソリテリアン調査でいうと、共和党支持者は民主党支持者に比べて圧倒的にオーソリテリアンが多いのです。そして皮肉なことに二党政治では、非民主的なオーソリテリアンの方が上意下達の統率力で多数決に強い。

反エスタブリッシュメントの嵐で始まった選挙から生まれたのはオーソリテリアン政権だったという陳腐なまでに「歴史は繰り返す」筋書です。

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surrogate(サロゲート)

surrogateを英和辞典でひくと「代理人」とか「代行者」とあって、ニュースに出てくるsurrogateというと、まず思い浮かぶのはsurrogate mother (代理母)だと思います。が、最近頻繁に登場するsurrogateは日本語の「代理」とはちょっとニュアンスが違います。たとえば「Michelle Obama is Clinton’s best surrogate.」というふうに使われているのですが、もちろんミシェル・オバマはヒラリーの代理ではありません。Surrogateとは候補者に代わって応援演説をする人や、候補者の意見を代弁したり質問に答えたりするキャンペーンスタッフのことです。

さて、ヒラリー陣営ではオバマ大統領からミシェル・オバマ、バーニー・サンダース、エリザベス・ウォーレンまで人気のある大物サロゲートがあちこちで応援演説をしていますが、トランプのサロゲートになる共和党の大物政治家はほとんどいません。表立ってトランプを支持しているのは、ブリッジゲートのスキャンダルでそれどころではないクリス・クリスティや嫌われキャラのニュート・ギングリッチなど、いろいろな意味で微妙な政治家ばかり。トランプのサロゲートといえば、政治家よりもキャンペーンスタッフです。予備選挙の頃からトランプが問題を起こすたびに「トランプ・サロゲート」として各局のニュース番組に登場していました。

トランプ・サロゲートとしてテレビに出てくるスタッフは何人かいるのですが、本人が女性の敵扱いされているのを意識して女性が多い。しかし金髪ロングヘアのいかにもトランプタイプばかりなのが笑えるところです。が、その中で別格なのはキャンペーン・マネージャーのKellyann Conwayで、SNLの大統領選パロディにも登場するほど有名になりました。出てくるたびにトランプの問題発言や問題行動の言い訳をするのが仕事みたいになっているのですが、ともかく強引な問題点のすりかえと、いくら何でもな無理やりな理論がすごい。もちろん、それはトランプが滅茶苦茶だからで、それをなんとか取り繕うのがサロゲートの仕事なわけです。仕事とはいえご苦労なことだと思っている人も多いと思います。

もっとも政治の世界でキャリアを築いてきたKellyann Conwayはそんなことは先刻承知の上だろうし、選挙結果がどうなろうと、ただでは起きなさそうです。

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