英単語からアメリカがわかる

在米ライター黒田基子の使える時事ネタ英単語

カテゴリー: 法律

constituent(コンスティテュアント)

英和辞典をひくと成分とか要素といった訳が一番に出てきますが、constituentがニュースに出てくれば通常、それは有権者という意味です。

constituentは日本語の「有権者」に比べると、ずっとカジュアルに使われる言葉で有権者全般ではなく、その特定の選挙区の有権者を指します。たとえば国会議員に対して「I am a constituent.」と言えば、「私はあなたの選挙区の有権者である」という意味になります。このconstituentが先週末からのニュースに頻発しています。

今週はアメリカの国会が中休み。国会議員はそれぞれの地元に戻っていたのですが、そこに待ち構えていたのがconstituentのプロテスト。全国各地で共和党国会議員のオフィスは大変なことになりました。

トランプ大統領誕生以来、反トランプのプロテストはあちこちで発生していますが、トランプ政権が招く危機的状況はますます深まるばかり。プロテストも盛り上がる一方。最初はデモが中心だった反トランプ運動も形態を変えつつあります。ネットを通じて広まった有効なプロテスト戦略として、まずそれぞれの地元の国会議員から攻略せよ、という方法が浸透してきたのです。ターゲットは国会のマジョリティであり、トランプを支持している共和党議員。そして次期選挙で議席を失うことを何よりも恐れている国会議員に有効なのは、署名よりも実際に電話をかけたり、事務所に出向くことなのだそうです。これは、かつて保守派のティーパーティがとった戦略と同じで、これによって当時のオバマ政権下の民主党は大敗を喫しました。

かくして国会議員のオフィスは電話がパンク状態になり、通常なら注目を集めることのない地元有権者との対話集会には会場に入りきれないほどの「怒れるconstituent」が詰めかけることになりました。抗議と質問責めに合う各地の共和党国会議員の様子が盛んに放映されていましたが、ホワイトハウスは「これはリベラルに組織されたプロのプロテスターであって民意ではない」と相変わらずな反応。が、かつて同じようにティーパーティのプロテストに真剣に取り組まなかった民主党がどんな目にあったかを知っている共和党国会議員がこれにびびらないわけはありません。

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impeachment(インピーチメント)

弾劾。日本では弾劾といえば裁判官の罷免裁判ですが、アメリカでは大統領にも適用されます。トランプ大統領が現実になってからニュースに度々見かける単語ですが、ここ数日その登場頻度を増しています。が、実際には弾劾はめったに起こることではありません。これまで実際に弾劾裁判にいたった大統領はアンドリュー・ジョンソン(1868年)とビル・クリントンの2人のみ。しかもいずれも弾劾裁判で罷免をのがれています。ニクソンはウォーターゲートで訴追されましたが、弾劾裁判になる前に辞任しています。つまり、これまでに弾劾裁判で罷免になった大統領は誰もいないのです。

弾劾の種がてんこ盛りに見えるトランプでも実際に弾劾にまで持ち込むのは並大抵のことではありません。手続きとしては、まず、下院が過半数をもって訴追し、それを受けて上院で弾劾裁判が行われます。その上で大統領を弾劾するには上院で3分の2の同意が必要です。その訴追の根拠として憲法に定められているのは「反逆罪、収賄罪、その他の重罪や不品行」です。大統領にあるまじき発言の数々や、連発する大嘘くらいでは弾劾できないのです。

一番可能性の高いのはトランプエンタープライズとの利益相反がまねく収賄罪ですが、弾劾にあたる罪とするかどうかは訴追する下院の判断に任されています。その下院は共和党249議席に民主党193議席と共和党がかなり上回っています。そして上院もマジョリティは共和党。共和党が自党の大統領を弾劾せざるをえないくらいに切羽詰まった事態にならなければ弾劾は起こりません。つまり頼みの綱は共和党だけということになります。

当初は棚からぼたもちのようなトランプの勝利に大はしゃぎだった共和党ですが、今、共和党議員たちは、苦しい立場に追い込まれています。常識はずれな大統領令を連発する大統領に、就任からたった1週間でますます吹き荒れるプロテストの嵐。政治的リスクを恐れてトランプに同意することも批判することもできずに、大多数の共和党議員はだんまりを決め込んでいます。民主党の議員や州知事や市長が各地で大々的にトランプ批判を繰り広げているのと対照的です。

が、ここにきて共和党議員もトランプ批判をしないでいる方が政治的リスクが高いのでは、と考え始めているようです。中東7か国と難民入国禁止令は世界中で批判の的になり、司法とも対立し、プロテストデモは広がるばかり。そもそも共和党にとっては言うことをきく副大統領のペンスに首をすげかえた方が都合がいいのです。トランプサポーターの反発を恐れずに弾劾できるならそれにこしたことはない。一方、これまでリベラルの間で弾劾を求める声が今一つ盛り上がらなかったのは、トランプの後釜が反LGBT中絶禁止を唱える超保守のペンスだから。が、「トランプはペンスよりはましなのでは」という希望的予測が幻想であったことがはっきりした今、共和党も民主党も無党派リベラルも「トランプをなんとかしたい」ということで一致しています。

なにかにつけて前代未聞続きのトランプはアメリカ史上初の弾劾裁判で罷免される大統領になるかもしれません。

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conflict of interest(コンフリクト・オブ・イントレスト)

差別発言、セクハラ、虚言と問題だらけのトランプですが、次期大統領と決まってから現実問題として一番に浮上してきたのが、conflict of interestです。日本語で言うと利益相反。

トランプは国際的に展開しているトランプ・エンタープライズの経営者です。アメリカ各地、そして海外にもトランプの名前のついたホテルやビルやゴルフ場があります。その他トランプブランドの商品も販売しています。たとえば、海外の要人がワシントンDCを訪れた場合、アメリカ大統領の心証をよくするためにトランプ・ホテルのスイートに宿泊するかもしれません。また、外国にトランプタワーやゴルフ場を作るために政治的圧力を使って国の認可を素早く受けることもできてしまいます。

つまり企業経営者が大統領になるということは汚職の種だらけになるということです。そもそも、どこまでが汚職かという区別さえつけられません。ですからこれまでの大統領は問題を避けるために例外なく個人資産をblind trust(白紙委任信託)にしてきました。ブラインド・トラストとは資産を清算(現金化)して第三者にその管理を託し、任期中はその財産の運用状況について本人には一切知らされないというものです。そもそも大統領になる時点ですでにプロの政治家であるのが普通ですからトランプのようなケースそのものが例外なのですが、企業に投資している資産などもすべてブラインド・トラストにするのが大統領の常識でした。

が、トランプの対策はトランプ・エンタープライズを自分の3人の子どもたちに託すというもの。それではブラインド・トラストにはならないのですが、トランプは完全なブラインド・トラストにする気はさらさらないようです。これにはメディアや民主党ばかりではなく、共和党内部からも批判があるのですが、トランプは自信満々です。

なぜかというとほとんどの公務員に適用されるconflict of interestを禁じた法律が大統領には適用されないから。大統領はそうした心配のない自己倫理をもつことが前提だからです。だからこそ歴代の大統領は「李下に冠を正さず」ということで資産をブラインド・トラスト化してきました。「法律がなければなんでもあり、法律があってもすり抜けられれば勝ち」みたいな倫理基準の持ち主が大統領になることが想定外だったわけです。

が、conflict of interestが適用されなくとも、収賄禁止法は大統領にも適用されます。トランプ・ホテルを海外の要人が利用しただけでも、それが収賄ではないということを証明することは容易ではありません。つまりトランプ・エンタープライズが営業しているだけで弾劾の種が次々出てくるというわけです。共和党内部からも批判があるのは、それがわかっているから。

それにしても、どうしてこんなにわかりやすい問題が選挙期間中にヒラリーサイドからもメディアからももっと深く追及されなかったのでしょう。きっとトランプ大統領実現の可能性を誰も想定していなかったからです。もっと真剣にトランプが大統領になったら何が起こるかをシミュレーションしていれば、こんな悪夢は避けられたかもしれないのに、と思うとまたやりきれなくなります。

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quid pro quo(クイド・プロ・クオ)

見るからに英語らしくない綴りですが、これはラテン語です。英語として使われている法律用語にはこの手のラテン語そのまんまの成句がけっこうあります。しかも、それがわりとよく使われるのですが、どれもコンセプチュアルな意味で一言では訳せない意味をもっています。だから英語でもラテン語がそのまま使われているのだと思います。

ここ数週間ニュースで見かけたquid pro quoはヒラリーのスキャンダルです。ヒラリーには国務長官時代に公務メールに私用サーバを使っていたという予備選挙のころから引きずっている問題があります。その問題が発覚したころに、問題のEメールの機密扱いのランクを下げようと国務省がFBIに交換条件をもちかけて取引(quid pro quo)しようとしていた、というのが大雑把な内容です。

quid pro quoは、英和辞典には「対価」とか「見返り」とかありますが、Wikipediaによれば、ラテン語から英語の直訳は「something for something」または「this for that」。法的には「何らかの価値やサービスを、それに見合うものと交換すること」で、一方的でないこと、交換が対等であることが司法上の論点になるそうで、良い意味にも使われます。必ずしも違法な取引を意味するわけではありません。

で、このヒラリーのスキャンダルですが、まだ真偽は明らかではないにしても本選挙直前のスキャンダルとしては相当まずいもののはずです。それにも関わらず、あっという間に埋もれてしまいました。それは、ほぼ同時に進行していたトランプの女性蔑視、セクハラ問題のほうがずっとわかりやすくて面白かったからです。ヒラリーのスキャンダルは世間にアピールするには難しすぎたのです。わかりやすさとエンターテイメント性でここまできたトランプですが、スキャンダルに関してはそのしっぺ返しを受けているわけです。

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