英単語からアメリカがわかる

在米ライター黒田基子の使える時事ネタ英単語

カテゴリー: 心理学

gaslighting(ガスライティング)

「Gaslight(ガス燈)」(1938)というパトリック・ハミルトンの戯曲から生まれた心理学用語です。1944年にイングリット・バーグマン主演で映画にもなった『ガス燈』は、妻に自分の犯罪を気づかれそうになった夫が、さまざまな小細工を仕組んで、妻に自分が正気を失っていると思い込ませるというミステリーです。Gaslightingとは相手に誤った情報を与えて現実感覚を狂わせる手法で、ソシオパスがよく被害者に対して行う精神的虐待だと言われています。

トランプ大統領は就任以来、さまざまなメディアからAmerica’s gaslighter in chiefと言われています。就任式の報道官の「史上最大の観衆」という大嘘発言に始まり、オルターナティブファクト発言、根拠のないオバマ盗聴発言と、もうどれが嘘というより、トランプのツイッターとホワイトハウスの発表は嘘がデフォルト状態です。閣僚人事も問題のない人物は誰一人としていない状態。縁故主義、利益相反の種は山盛り、ロシア疑惑はますます深まるばかり。これが通常の政権ならどれ一つとっても日本の森友学園なみの大騒動になってもおかしくないものばかりなのですが、あまりに次から次へと起こるので誰もフォローすることができません。移民政策、健康保険案と、政策が出てくるたびに、そのろくでもなさに唖然とするばかり。反対運動だって何にフォーカスしていいかわからないような大忙しです。

そうした中で、いつのまにか超保守のゴーサッチは連邦最高裁判所判事として承認され、トランプは議会の承認も得ずにシリアを爆撃。アフガニスタンにも大型爆弾を落とし、今や北朝鮮にも戦争をしかけかねない勢いです。トランプの外交方針や政治的意図なんてものは考えるだけ無駄(そんなものないから)というのはもうとうからアメリカのまともなメディアでのコンセンサスです。ガスライティングに長けているトランプですが、ガスライティングの手法もますます大がかりにしないともたなくなってきています。

「素早い」シリアの爆撃が「悪者を成敗する強いアメリカ」を示して「大統領らしい」行動だと国民に受けたと思い込んでいるトランプにとって、軍事行動はまったく進まない政策やロシア疑惑のめくらましに最高です。強いアメリカが好きなトランプサポーターをガスライティングのコントロール下におさめておくのにこんなに便利な方法はありません。もともとトランプのようなmale chauvinist(男性優越主義者)は軍事好きと相場が決まっています。大統領就任式にも北朝鮮のような戦車のパレードを希望したものの軍部に断られた(当たり前だ)ということが報道されています。

この金正恩状態のトランプをとめるべき議会も、共和党はトランプサポーターこわさに腰がひけてるし、過半数をとれない民主党は無力です。今や外交政策では中国やロシアの方がはるかに大人でまともな大国に見えます。「Make America Great」どころか「Make America Infantile」です。ちなみにトランプは習近平との首脳会談で「中国と韓国には千年におよぶ複雑な歴史がある」と教えてもらったのだそうです(絶望)。習近平でもプーチンでもいいからこいつを止めてくれないかと願うしかないというのがアメリカの現状です。

*「トランプ大統領4:トランプ政権はいつまでもつのか?」を更新しました。

https://nyqp.wordpress.com/

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Narcissistic personality disorder(ナルシスティック・パーソナリティ・ディスオーダー)

日本語にすると自己愛性人格障害。頭文字をとってNPDと略すこともあります。「ナルシスト」という言葉はカタカナ言葉としてよく知られているのでわかりやすいですが、逆に正確な意味が伝わりにくい名称です。これは「彼はナルシストだ」という程度の性格の特徴ではなく、病理的な心理機構による障害です。アメリカ心理学会が診断基準にしている自己愛性人格障害の特徴は次のようなものです。
誇大な自己イメージ、特権意識、自分の実績や才能の誇大認識、自らの成功やパワーなどの現実離れした夢想へのこだわり、賛美への渇望、自分の希望通りの扱いへの期待、他人の気持ちやニーズへの共感の欠如、他人への嫉妬また他人が自分を羨望しているとの思い込み、自分の希望を叶えるための他者の利用、尊大で傲慢な態度など。

こうした特徴にいちいち当てはまるトランプが自己愛性人格障害なのではないかということは予備選挙時から度々指摘されてきました。が、アメリカ心理学会には「実際に診察していない人(メディアに露出する有名人など)への診断は下さない」というGoldwater ruleと呼ばれる規定があり、トランプ自己愛性人格障害説は今ひとつ歯切れの悪いものでした。

しかし、トランプ大統領就任を目前に控えた今、度重なる常軌を逸した行動によって、トランプ自己愛性人格障害説は多くの人が認めるものになりつつあります。心理学者の中にもはっきりと「トランプは自己愛性人格障害である」と断言する人が出てきました。診断には実際に診察することが大切とはいえ、メディア露出の多い有名人の場合は、その行動から1時間の診察より多くがわかる、という意見もあります。人格障害の患者というのは診察室ではその特徴を隠そうとするので、長期にわたって実際の行動を観察できる方が診断の信ぴょう性は高いというのです。

トランプが自己愛性人格障害だと考えると、これまでのトンデモ発言や異常な行動がすべて理解できます。普通の政治家ならまず口にしないような、現実性のまったくない「メキシコ国境の壁」だの、何の根拠もない「ISISを全滅させる作戦」といったことを平気で言えるのは誇大妄想ゆえと思えば納得がいきます。ツイッターでのプロテストデモや個人への攻撃も、どう考えても政治家としてマイナスになるだけなのにやめられないのは、論理的に考えた行動ができない病気だからです。批判への過剰反応も自己愛性人格障害の特徴の一つです。

アメリカの情報機関による「大統領選挙戦時のロシアによるハッキング」報告を認めず、逆にCIAにくってかかるトランプの行動はトランプ本人の損得だけを考えてもまったく理屈に合いません。が、自己愛性人格障害ゆえに自分の勝利にケチをつけることは客観的事実であっても認めることができないのです。つまり問題が起こった場合にダメージコントロールができず、さらに墓穴を掘り続けることしかできないということです。これは大統領として致命的です。

日本語版のウィキペディアは、自己愛性パーソナリティ障害と思われる有名人として三島由紀夫やサルバドール・ダリをあげています。本人が幸せかどうかは別としてアーティストなら、かえってそれが作品の根源となっているとも言えます。リアリティ番組でのトランプの成功も、その障害ゆえかもしれません。が、トランプはその誇大妄想によって大統領になってしまいました。

選挙中の行動は作戦であって、大統領になれば大統領らしい行動ができるなどという楽観的な見通しをもっている人は今やほとんどいないでしょう。それどころか、ありえないと思われた大統領選に勝利したことが、トランプの誇大妄想に油を注いだと思われます。

自己愛性パーソナリティ障害患者との対応は大変難しいのだそうです。ちょっと批判すれば過剰に牙をむき、ほめればその妄想をさらに広げさせてしまうからです。上院下院ともに共和党がマジョリティを守っている現在、トランプの安全装置は思いがけない勝利を利用する気満々の共和党だけという心もとない状況です。

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