英単語からアメリカがわかる

在米ライター黒田基子の使える時事ネタ英単語

作者別: 黒田基子 (1ページ/4ページ)

complicit(コンプリシット)

アメリカで先週末に突然ウェブスターのネット辞書の検索ナンバー1におどりでた形容詞です。ウェブスターによると意味は「helping to commit a crime or do wrong in some way」、和訳だと「共犯の、共謀した、加担した」といった意味になります。

この形容詞が話題になった理由は土曜日のSNL(サタデーナイトライブ)のパロディ。SNLといえばアレック・ボールドウィン扮するドナルド・トランプが有名ですが、今回の目玉はスカーレット・ヨハンソン扮するイバンカ・トランプ。香水のコマーシャル風のスキットで、その香水のネーミングがComplicit。パーティでドレスアップしたイバンカのバックに流れるナレーションは直訳するとこんな感じ。
「She’s beautiful. She’s powerful. She’s … complicit.」
(彼女は美しい。彼女はパワフル。彼女は…共謀)
「She’s a woman who knows what she wants. And knows what she’s doing. Complicit.」
(彼女は自分が欲しい物がわかっている。自分が何をしているか知っている。共謀)
「Complicit: The fragrance for the woman who could stop all of this, but won’t.」
(共謀:すべてを止めることができたのに、止めない女のためのフレグランス)
そして口紅をつけるイバンカの前の鏡に映っているのはアレック・ボールドウィン扮するトランプの姿。最後の落ちは「ジャレッド用コロンもあります」。

SNLのトランプネタでも久々の傑作です。SNLのサイトからの貼り付けだと日本では視聴できないようなのが残念ですが。

日本語のサイトでは、イバンカ・トランプは才色兼備みたいな肯定的な記述もよく見かけるのですが、アメリカでの現在のイメージはこのSNLのパロディそのもの。ちなみに夫のジャレッド・クシュナーの方も週明けにクシュナー家が所有するマンハッタンの売買で利益相反疑惑が大々的に報道されていました。家族ぐるみでの汚職疑惑が次々とわいてでる大統領でも、共和党にとって利用価値があるかぎり弾劾はありません。もう誰も「アメリカはバナナリパブリックか?」とは言いません。バナナリパブリックがデフォルトになっちゃったので。

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constituent(コンスティテュアント)

英和辞典をひくと成分とか要素といった訳が一番に出てきますが、constituentがニュースに出てくれば通常、それは有権者という意味です。

constituentは日本語の「有権者」に比べると、ずっとカジュアルに使われる言葉で有権者全般ではなく、その特定の選挙区の有権者を指します。たとえば国会議員に対して「I am a constituent.」と言えば、「私はあなたの選挙区の有権者である」という意味になります。このconstituentが先週末からのニュースに頻発しています。

今週はアメリカの国会が中休み。国会議員はそれぞれの地元に戻っていたのですが、そこに待ち構えていたのがconstituentのプロテスト。全国各地で共和党国会議員のオフィスは大変なことになりました。

トランプ大統領誕生以来、反トランプのプロテストはあちこちで発生していますが、トランプ政権が招く危機的状況はますます深まるばかり。プロテストも盛り上がる一方。最初はデモが中心だった反トランプ運動も形態を変えつつあります。ネットを通じて広まった有効なプロテスト戦略として、まずそれぞれの地元の国会議員から攻略せよ、という方法が浸透してきたのです。ターゲットは国会のマジョリティであり、トランプを支持している共和党議員。そして次期選挙で議席を失うことを何よりも恐れている国会議員に有効なのは、署名よりも実際に電話をかけたり、事務所に出向くことなのだそうです。これは、かつて保守派のティーパーティがとった戦略と同じで、これによって当時のオバマ政権下の民主党は大敗を喫しました。

かくして国会議員のオフィスは電話がパンク状態になり、通常なら注目を集めることのない地元有権者との対話集会には会場に入りきれないほどの「怒れるconstituent」が詰めかけることになりました。抗議と質問責めに合う各地の共和党国会議員の様子が盛んに放映されていましたが、ホワイトハウスは「これはリベラルに組織されたプロのプロテスターであって民意ではない」と相変わらずな反応。が、かつて同じようにティーパーティのプロテストに真剣に取り組まなかった民主党がどんな目にあったかを知っている共和党国会議員がこれにびびらないわけはありません。

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nuclear football(ヌクリアー・フットボール)

「核のフットボール」といっても、核を投げ合うゲームではありません。アメリカ大統領が核兵器の使用を決定する際に必要な、いわゆる核のボタンが収納されているブリーフケースのことです。

非常時に備え、大統領の行くところにはいつであれどこであれ、nuclear footballと呼ばれる大きくて重そうなブリーフケースを下げた兵士が必ず付き従います。ケースの中には実際に核兵器のリモコンが収納されているわけではなく、核兵器の使用に際して必要な手続き資料や書類その他がすべて入っているのだそうです。が、大変物騒なものであることに変わりはありません。

さて、先日訪米した安倍首相はトランプにディナーに招かれました。これはどの大統領でもやる普通のことです。普通でなかったのはその場所がホワイトハウスではなく、トランプ所有のフロリダの超高級会員制ゴルフクラブ「マールアラゴ」だったこと。日本でもずいぶん報道されていた「ゴルフ外交」の後のディナーです。大統領所有のゴルフクラブを外交接待に用いる(経費は政府が払う)のも明らかな利益相反ですが、今回もっと大きな問題になったのはトランプ政権のセキュリティ意識の欠如。

ディナーの場所はゴルフクラブのクラブハウス。貸し切りでもなんでもなくクラブのメンバーであるお客がまわりに大勢いるところです。しかも屋外。ちょうどその最中に飛び込んできたのが、北朝鮮ミサイル実験のニュース。ディナーテーブルは緊急の戦略会議と化しました。一般人のお客がいるレストランのど真ん中で。その様子が報道され、ホワイトハウスはディナーの場では機密情報は交換されていないと言い訳していましたが、そういう問題以前だろうって話です。

で、nuclear footballですが、これもこの晩に物議をかもしたものの一つだったのです。それは「マールアラゴ」に客として来ていたお金持ちの一人がnuclear footballを持って大統領に付き従っている兵士と一緒に写真を撮って「ほら、これがnuclear footballだ」と得意げにソーシャルメディアに投稿したから。軍の規定には触れていないそうですが、そもそも規定以前に常識はずれな出来事です。

nuclear footballがトランプの手元にある間、世界はおちおち眠れません。

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impeachment(インピーチメント)

弾劾。日本では弾劾といえば裁判官の罷免裁判ですが、アメリカでは大統領にも適用されます。トランプ大統領が現実になってからニュースに度々見かける単語ですが、ここ数日その登場頻度を増しています。が、実際には弾劾はめったに起こることではありません。これまで実際に弾劾裁判にいたった大統領はアンドリュー・ジョンソン(1868年)とビル・クリントンの2人のみ。しかもいずれも弾劾裁判で罷免をのがれています。ニクソンはウォーターゲートで訴追されましたが、弾劾裁判になる前に辞任しています。つまり、これまでに弾劾裁判で罷免になった大統領は誰もいないのです。

弾劾の種がてんこ盛りに見えるトランプでも実際に弾劾にまで持ち込むのは並大抵のことではありません。手続きとしては、まず、下院が過半数をもって訴追し、それを受けて上院で弾劾裁判が行われます。その上で大統領を弾劾するには上院で3分の2の同意が必要です。その訴追の根拠として憲法に定められているのは「反逆罪、収賄罪、その他の重罪や不品行」です。大統領にあるまじき発言の数々や、連発する大嘘くらいでは弾劾できないのです。

一番可能性の高いのはトランプエンタープライズとの利益相反がまねく収賄罪ですが、弾劾にあたる罪とするかどうかは訴追する下院の判断に任されています。その下院は共和党249議席に民主党193議席と共和党がかなり上回っています。そして上院もマジョリティは共和党。共和党が自党の大統領を弾劾せざるをえないくらいに切羽詰まった事態にならなければ弾劾は起こりません。つまり頼みの綱は共和党だけということになります。

当初は棚からぼたもちのようなトランプの勝利に大はしゃぎだった共和党ですが、今、共和党議員たちは、苦しい立場に追い込まれています。常識はずれな大統領令を連発する大統領に、就任からたった1週間でますます吹き荒れるプロテストの嵐。政治的リスクを恐れてトランプに同意することも批判することもできずに、大多数の共和党議員はだんまりを決め込んでいます。民主党の議員や州知事や市長が各地で大々的にトランプ批判を繰り広げているのと対照的です。

が、ここにきて共和党議員もトランプ批判をしないでいる方が政治的リスクが高いのでは、と考え始めているようです。中東7か国と難民入国禁止令は世界中で批判の的になり、司法とも対立し、プロテストデモは広がるばかり。そもそも共和党にとっては言うことをきく副大統領のペンスに首をすげかえた方が都合がいいのです。トランプサポーターの反発を恐れずに弾劾できるならそれにこしたことはない。一方、これまでリベラルの間で弾劾を求める声が今一つ盛り上がらなかったのは、トランプの後釜が反LGBT中絶禁止を唱える超保守のペンスだから。が、「トランプはペンスよりはましなのでは」という希望的予測が幻想であったことがはっきりした今、共和党も民主党も無党派リベラルも「トランプをなんとかしたい」ということで一致しています。

なにかにつけて前代未聞続きのトランプはアメリカ史上初の弾劾裁判で罷免される大統領になるかもしれません。

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alternative facts(オルタナティブ・ファクツ)

 ホワイトハウスの報道官、ショーン・スパイサーの初回の会見は「トランプ大統領就任式は歴史上最大の観衆を集めた」という大嘘発表で始まりました。就任式会場の俯瞰写真からもDCの地下鉄利用者数からもトランプの就任式の観衆がオバマの就任式の観衆を下回っていたのは動かせない事実。既に就任式の不人気ぶりはメディアで大きく報道されていただけに、このあまりにも見え見えな嘘は多くのアメリカ人を唖然とさせました。さらにそれに追い打ちをかけたのが、報道官の嘘を追求されたトランプのアドバイザー、ケリーアン・コンウェイが言い放った名言(迷言)、alternative factsです。
 alternativeというのは「代替の」とか「従来とは異なる」、「もう一つの」といった意味の形容詞です。よく使われる例としてはalternative medicineがあります。alternative medicineとは西洋医学に対して漢方などの東洋医学やハーブ療法などの伝承療法を指す言葉で、この場合、alternativeは「異なるアプローチの」といった意味合いになります。
 が、alternative facts となると話は違います。fact(事実)にalternativeなんてあるわけありません。根拠のまったくない「史上最大の観衆」という報道官の発言を嘘と言わずに「alternative factsを発表しただけ」と言う無理やりな言い訳は、まさにケリーアン・コンウェイならでは。選挙期間中はトランプの問題発言の火消し役で大活躍していたケリーアン・コンウエイは、現在トランプ政権のアドバイザーとして、メディアとのコミュニケーションで重要な役割を担っています。臨機応変に追求をかわす頭の回転の速さと思わずのけぞるようなスーパー詭弁の力技で注目されるキャラです。
 が、いかにケリーアンがクリエイティブであろうとも、alternative factsなんてことが世間に通用するわけはありません。#AlternativeFactsというハッシュタグはあっという間にネットをかけめぐり、リベラルジョークのネタになりました。そもそも就任式の観衆数などどうでもいいような問題ですが、そのどうでもいいことに、誰が見てもわかる嘘をつくこと自体が常識的な理解の範囲を超えています。理解できるのは、これからもホワイトハウス報道官の発表はalternative factsてんこ盛りであろうということだけです。
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