英単語からアメリカがわかる

在米ライター黒田基子の使える時事ネタ英単語

月別: 10月 2016

quid pro quo(クイド・プロ・クオ)

見るからに英語らしくない綴りですが、これはラテン語です。英語として使われている法律用語にはこの手のラテン語そのまんまの成句がけっこうあります。しかも、それがわりとよく使われるのですが、どれもコンセプチュアルな意味で一言では訳せない意味をもっています。だから英語でもラテン語がそのまま使われているのだと思います。

ここ数週間ニュースで見かけたquid pro quoはヒラリーのスキャンダルです。ヒラリーには国務長官時代に公務メールに私用サーバを使っていたという予備選挙のころから引きずっている問題があります。その問題が発覚したころに、問題のEメールの機密扱いのランクを下げようと国務省がFBIに交換条件をもちかけて取引(quid pro quo)しようとしていた、というのが大雑把な内容です。

quid pro quoは、英和辞典には「対価」とか「見返り」とかありますが、Wikipediaによれば、ラテン語から英語の直訳は「something for something」または「this for that」。法的には「何らかの価値やサービスを、それに見合うものと交換すること」で、一方的でないこと、交換が対等であることが司法上の論点になるそうで、良い意味にも使われます。必ずしも違法な取引を意味するわけではありません。

で、このヒラリーのスキャンダルですが、まだ真偽は明らかではないにしても本選挙直前のスキャンダルとしては相当まずいもののはずです。それにも関わらず、あっという間に埋もれてしまいました。それは、ほぼ同時に進行していたトランプの女性蔑視、セクハラ問題のほうがずっとわかりやすくて面白かったからです。ヒラリーのスキャンダルは世間にアピールするには難しすぎたのです。わかりやすさとエンターテイメント性でここまできたトランプですが、スキャンダルに関してはそのしっぺ返しを受けているわけです。

この記事をシェア:
Facebooktwittergoogle_pluspinterest

GOP(ジーオーピー)

共和党(Republican)の別名です。民主党(Democrat)は略称で呼ばれることはないのですが、なぜか共和党だけがGOP。短くて便利だからか、ニュースではGOPと表記されることの方が多いくらいです。GOPとはGrand Old Partyの略。いかにも伝統ある保守政党という感じの別名ですが、実は共和党は歴史上ずっと保守政党だったわけではありません。「リンカーンの党」というのが共和党の売り文句ですが、リンカーンの時代には共和党が奴隷解放を唱えるリベラルで民主党が保守政党だったのです。

現在、共和党といえば中絶反対、銃規制反対、と時代に逆行しているとしか思えないポリシーを主張する保守政党ですが、上院下院とも共和党がマジョリティをとっています。基本的に小さな政府志向でプロビジネスの共和党は、アメリカのマッチョ文化や資本原理主義と相性がいいのです。しかし、そのGOPが今、危機に瀕しているといわれています。

自爆を続けるトランプが大統領選でヒラリーに勝てる可能性は限りなく低くなっていて、今や近年にない大差負けをするのではないかと予想されています。GOPにとってのダメージは大統領選に負けることだけではありません。このままでは上院のマジョリティは民主党にとられ、圧倒的多数をとっている下院すら危ないといわれています。さらには大統領選後の党としての存続をあやぶむ声すらあります。トランプの出現によって保守中道の支持者はどんどん離れていっています。そして、トランプが負けた後、トランプ支持者が共和党エスタブリッシュメントの政治家を支持することも考えにくいのです。

トランプは出てくるべくして出現した存在であって、共和党はずっと前に進むべき道を間違えたのだという論評をあちこちでみかけます。大統領選が終わればトランプの呪縛からは逃れられますが、そのトランプを支持した人々が共和党の支持基盤の大きな部分を占めることは変わりません。Grand Old Partyはこれからどこへ向かうのか。大統領選挙後が注目されます。

この記事をシェア:
Facebooktwittergoogle_pluspinterest

lewd (ルード)

カタカナで書くとrude(無礼な、失礼な)と同じになってしまい、耳で聞くと日本人には聞き分けが困難です。まったく違う単語ですが、大変よろしくないという点では同じなので、音声だとrudeと勘違いしやすいと思います。この金曜日からやたらとニュースに飛び交っているlewdは「下劣な、みだらな、わいせつな」などと訳される単語で、lewd conversation、lewd commentsで世間を騒がせているのは、毎度おなじみのトランプです。

すでにあちこちで報道されているので詳しくは触れませんが、トランプが11年前に出演したテレビ番組の舞台裏で「オレは有名だから女に何したって大丈夫なんだ。XXだって触れちゃうんだよ」みたいなことを自慢げに話しているビデオが公開されて大騒ぎになっているわけです。興味のある方は「trump lewd」でグーグル検索すれば、関連ニュースが山のように出てきます。

lewdとは、単なるわいせつ表現ではなくて、offensive(攻撃的、不快にさせる)という意味を含む言葉です。この場合は女性に対する侮蔑的な発言であり、セクハラ発言であるということになります。単に卑猥な言葉を叫んでみました、というわけではないので、これは政治家として決定的にまずい。しかも、メジャーなテレビ局の映像として残っているので、言い訳のしようがない。さらに似たようなlewd発言をしているラジオ番組の音声も掘り起こされ、週末のニュースはトランプのlewd 発言祭り状態です。

とはいえ、このlewd発言はいかにもトランプが言いそうなことで、今さら驚くことではありません。浮動票獲得はさらに絶望的になりましたが、トランプのコアなサポーターは一向に動じていません。トランプのlewd発言に一番右往佐生してるのは共和党の政治家です。みんな、敗色濃厚になったトランプとの政治的共倒れを避けるために必死です。また、トランプを嫌いながらも、無視できない数のトランプ支持者にそっぽを向かれたらわが身が危ないと考えてきた共和党議員にとっては、沈みゆくタイタニックから逃げ出すチャンスともいえます。

そういうわけで、金曜日からトランプ批判やトランプ不支持を表明する共和党幹部や国会議員が続出しています。なんと副大統領候補のマイク・ペンスまでがトランプを弁護できないとして週末のトランプ応援イベントへの出席をキャンセル。ひょっとして逃げ出すのでは、とも言われています。そんな中で沈黙を守っているのが、崖っぷちからの大逆転を狙って早くからトランプにかけ、相次ぐ問題発言に無理やりなトランプ弁護を続けてきたクリスティやジュリアーニ。他に行き場のない彼らがこの先どう出るかは、選挙の先行きとは別に興味深いところです。

この記事をシェア:
Facebooktwittergoogle_pluspinterest

libertarian (リバタリアン)

カタカナで書くとオバタリアン(古いっ!)の親戚のようで、なんだか愛嬌がありますが、現在のアメリカでの位置づけも、ある意味愛嬌があると言えば言えなくもない存在です。

二大政党の大統領候補がいずれも不人気であることから、今回の大統領選挙は第三党の躍進が目立っています。特にトランプ、ヒラリーの不人気にあやかって支持者をグンと増やしたと言われるのがLibertarian Party(リバタリアン党)です。

libertarian とは libertarianismを主張する人のことです。スペルを見れば明らかなようにlibertyと同じ語源をもつ言葉です。究極の小さい政府を目指し、あらゆる規制、税金、年金や保険を含む福祉制度に反対で、完全に自由な資本主義を是とするのがlibertarianismで、かなり無政府主義に近い思想です。Wikipediaによると、日本語ではリベラリズムと区別するために自由至上主義とか完全自由主義とか訳されるそうです。

アメリカのリバタリアンは、2010年の中間選挙で登場した共和党保守派の新勢力、ティーパーティとセットで注目されたので、共和党系の保守派の一派とみなされることも多いのですが、実は究極のリベラルでもあります。規制廃止や減税といった小さな政府志向ではティーパーティと主張がかぶっていますが、ティーパーティがキリスト教保守派のモラルが大前提なのに対して、中絶もマリワナも個人の自由というのがリバタリアンです。党大会には、なんだかわけのわからないアーティストやら、不思議なコスプレの人やらがいて、とてもとても保守派には見えません(libertarian party conventionでグーグルの画像検索をするとわかります)。

そこで、この保守でも革新でもなく、保守とも革新ともかぶる部分のあるリバタリアン党の大統領候補、ゲイリー・ジョンソンが、トランプもヒラリーも嫌、という有権者の間で支持を伸ばしてきたわけです。といっても、現時点で支持率7%ですから、現実的にゲイリー・ジョンソンが大統領になる可能性はありません。しかし、選挙の勝敗を大きく左右する無党派層の中では大きな割合を占めていて、それがトランプとヒラリーのどちらの票を食うのかという点で、大統領選の結果に大きな影響があるとみられています。

ゲイリー・ジョンソンは2012年の大統領選挙でもリバタリアン党の候補だったのですが、その時は誰にも注目されない存在でした。今回の選挙で第三党として一躍脚光を浴びたわけですが、そうなるとボロも出てきます。まず9月初めの「What is Aleppo?」事件。テレビ番組のインタビューで「大統領になったらアレッポのような事態にどう対処するか?」ときかれて「アレッポって何?」と答えて、インタビュアーを唖然とさせたのです。そして、今週は「世界中の国の現存のリーダーの中で好きな人を挙げてください」という質問に答えられず(名前を思い出せず)、これがまた「Aleppo moment」として繰り返し放映されることになりました。今年の大統領選挙ではリバタリアン党のこれ以上の躍進はないものと思われます。 

この記事をシェア:
Facebooktwittergoogle_pluspinterest

Copyright ©2017 IBC Publishing, Inc. All Rights Reserved. 無断転載禁止